株式会社カンブライト缶詰で食品を救う。缶詰の共創開発を手掛けるカンブライト独自の開発手法とビジョンとは【前編】
規格外品や返品、売れ残りなど、さまざまな要因から発生している食品ロス。食にかかわる事業者が共通して頭を悩ませている課題です。加えて、新型コロナウイルスの影響により、来店客数の減少に悩む飲食店も多く聞かれます。
一方で、持続可能な開発目標・SDGsの目標12においては、「つくる責任 つかう責任」として、2030年までに世界全体の一人当たりの食料廃棄を半減させ、生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させることが掲げられています。
そんな中、食品ロスの解消や余剰食材活用の手段の一つとして注目されているのが、常温で長期間保存できる「缶詰」です。そこで今回は、200種類以上の缶詰開発に携わってきた株式会社カンブライトの代表取締役・井上和馬氏にインタビュー。事業内容やカンブライト独自の開発手法について伺いました。
常温で保存できる缶詰なら世界に日本の食を届けられる
まずは、カンブライトのミッションや解決したい社会課題について教えてください。
カンブライトは「日本の食品産業の衰退をどう食い止めるか」という社会課題をテーマに事業を行っています。日本の豊かな食を未来の子どもたちの世代に残してあげるためには、どんな支援ができるだろうと考えるところから事業がスタートしました。
課題解決のためにどういったアプローチを取るべきか考える中で、見据えたのが世界の市場です。食を取り巻く日本の市場はこれから必然的に縮小しますが、一方で世界の市場はまだまだ拡大の余地がある。だから、世界で日本の食をPRして販売していけるようなしくみを作っていきたいと思ったのです。
そのために、どんな事業を行っているんですか?
生産者や食品加工業者とコラボして缶詰を開発する、缶詰の共創開発を行っています。缶詰には、端材やB品と呼ばれるものなど、価値が付いていなくて廃棄してしまっている食材も有効活用しています。
なぜ缶詰にしようと思ったのですか?
常温で保存できるという点が一番大きな理由です。世界に日本の食を届けていこうと考えたときに、輸出しやすいので手段として適していると思いました。また、買ってもらうシーンを想像してみると、缶詰なら賞味期限が長くて、好きなタイミングで食べることができるので、お土産にも適しています。もともと、「価値を付けにくい食材を使って缶詰を作りたい」というニーズは生産者さんの中に多いもののハードルが高かったので、チャレンジしてもらいやすいしくみを当社でつくったのです。
コロナ禍で、カンブライトへのニーズに変化はありましたか?
飲食店への卸がストップしてしまった生産者さんなど、食材の大量余剰・大量廃棄に悩まされている人が増えて、「缶詰にできたらいいな」ではなく「なんとかしてほしい」と頼まれるような、緊急性の高い問い合わせが増えました。特に、高級食材の生産者さんには困っている方が多いようです。加えて飲食店からも、「食材が余っているためにテイクアウト以外の物販も始めたい」といった内容のお問い合わせをいただくことが増えました。
アジャイル手法で小ロットから製造できる缶詰開発
これまで、缶詰を作りたいのに作れなかった生産者さんが多かったのは、やはり大きな費用が掛かるからですか?
そうです。普通に缶詰を作ろとすると、最低ロットが何千個から何万個となります。すると、当然費用も掛かるし、何トンもの原材料を用意しなければならないですよね。また、作った缶詰をどうにか売りさばかないと、大量の在庫となってしまいます。カンブライトでは、アジャイル開発を採用してそういった懸念点をクリアしました。
“アジャイル開発”とはITの世界でよく聞くワードですが、具体的にはどのように缶詰を開発しているのですか?
アジャイル開発はソフトウェア開発などでよく使われる、機敏性の高い開発手法です。一般的な缶詰開発のプロセスは、最初にゴールを決めて、そのゴールを目指して作っていくというもの。一方で、アジャイル開発を採用している当社の缶詰開発は、何度も何度も小さく作って、その過程でバージョンアップをしていくものです。100個から商品化できますが、納得いくものができたとしてもそれで完成とするのではなく、世に出してみてお客様の反応を見ながらさらに改善していきます。私自身がITエンジニア出身だからこそ、こういった発想に繋がりました。
なるほど。ちなみに、1つの缶詰を開発していく際のプロセスは具体的にどんな感じなのでしょうか?
缶詰のレシピ開発は、「可能性を広げる開発をしよう」をテーマに進めていきます。缶詰は120℃の高圧高温殺菌が必要なので、まずお客様からご提供いただく食材を見て、“高温で火が入ってもおいしくなりそうなレシピ”を徹底的に調べます。独自性を出すために、地域の郷土料理を取り入れたり、地元で作られているお味噌やお醤油なども検討します。
そして、6種類×5缶くらい作ってみて、食材と缶詰加工の相性を確認します。
その中でもおいしいと思ったレシピを、次のステップでさらに細分化して、よりおいしくするための工夫をしていきます。わかりやすく言うと、第一段階でアヒージョがおいしいことがわかったら、第二段階でどのオイルが一番合うのかを確認するようなイメージです。
試作は何回行うのですか?
3回です。その時点で一番おいしいと思ったものを、一度販売してみます。時間経過とともに風味が落ちていかないかなどの確認はもちろん、お客様の反応を見ながらパッケージや価格帯、味の改良を繰り返していきます。
1つのブランドに束ねて幅広いチャネルで届ける
特に反響の大きかった缶詰はありますか?
「牡蠣みそ」です。冷凍蒸し牡蠣の加工業者さんから、「割れてしまった牡蠣や通常の規格にはまらない牡蠣を活用したい」と話があったんです。ちょうど豚のレバーペーストの試作をやっていたタイミングだったので、試しに牡蠣もペーストにしてみたところ、かに味噌のような風味が生まれて。こんな商品は世の中に無かったので、アジャイル開発だからこそ生まれたものかなと思っています。
他には、ハーブへしこをにんにくと一緒にオイルづけにした「青春アヒージョ」も人気ですね。「へしこ」とは、サバを塩づけにしてから、さらにぬか漬けにしたものです。発酵系は結構人気で、鮒寿司を作る際に漬けるお米と、サーモンや甘エビ、ホタテなどを合わせた商品もチーズのような味わいになっておいしいんですよ。
開発した缶詰を販売する際に工夫されていることはありますか?
“カンナチュール”という地域共創ブランドのもとに束ねて、ブランディングや販売戦略を行っています。特に一次産業に近い方などは「売り方がわからない。売り場が無い。」という事業者さんも多く、それならとコンセプトに統一性を持たせるためにも、こちら主導で販売していくことにしたのです。
開発した缶詰は、京都にある缶詰専門店、お酒と一緒に缶詰を楽しめる缶詰屋台、銀座に設置している缶詰自販機、日本酒イベントでの出店など、いろいろなチャネルで販売しています。
買う側にとっても、いろいろな缶詰を比較しながら選んだり食べてみたりできる体験は楽しいと思います。
今後は缶詰自販機の設置数拡大や、百貨店へのギフトショップ出店も考えています。カンブライトとしては、日本中でおいしい缶詰を作ることのできるしくみを用意して、そこで開発された缶詰をまとめて世界中に届けていきたいですね。開発された一つひとつの缶詰が集まって、さらなる価値を生むような枠組みを作っていきたいです。