お好み焼・鉄板焼の千房・代表取締役社長が語る
「新型コロナと共存する飲食店の未来」

新型コロナウイルスの感染拡大によって、飲食業は来店客数や売上の大幅減などのダメージを受けています。非常に厳しい経営状況に置かれている企業が多い中、「このピンチを変革の好機と捉えることが大事」と語るのが、大阪を中心にお好み焼、鉄板焼などを展開する千房株式会社の代表取締役社長・中井貫二様です。本記事は、フクシマガリレイが運営するオープンイノベーション拠点「MILAB」で2020年10月15日に開かれたセミナーでの、中井様の講演「新型コロナと共存する飲食店の未来」から、内容を抜粋して掲載いたします。

“お好み焼屋として初”に挑戦し続けてきた

私たち千房は1973年の創業以来、お好み焼や鉄板焼のレストラン運営を中心に外食業態や冷凍食品事業を展開している総合外食企業です。百貨店やホテルにお好み焼屋を出店したのも、機内食にお好み焼を提供したのも千房が初めてです。また、庶民派のイメージが強いお好み焼を、格調高い鉄板焼のお店で提供する「ぷれじでんと千房」を出店したり、海外にも7店舗を展開していたりします。このように、時代を先取りして革新的なことにチャレンジする姿勢は当社の社風であり、「やわらかな発想で、らしさを大切にして、考えたことは、すぐにやる」の頭文字をとって「やらかす千房」という標語も掲げています。

さて、2020年は新型コロナウイルス感染拡大という予期せぬ自体により、飲食店は苦境に立たされています。当社も大変厳しい状況が続いており、外国人観光客のお客様が多く訪れていた道頓堀の店舗は売上が昨年から95％減と、開けるのも閉めるのも地獄というような日々が続いていました。Go To Eatキャンペーンの開始により少しずつ明るい兆しも見えてきていて、なんとかこの状況を打開しようと全力で取り組んでいます。

「ホスピタリティ産業」である飲食業の意義を問い直す

このコロナ禍において私たち飲食業に携わる者は、何のために自分たちは商売を行うのか、自分たちの商売にはどんな意義があるのかという存在意義をもう一度考え直す必要があると思っています。飲食業は、売上総利益に対する人件費の割合が高く「労働集約型産業」と呼ばれるものです。しかし私は、飲食業はおもてなしと幸せを提供できる「ホスピタリティ産業」だと思っています。お客様の目の前でゼロから商品を作り上げてすぐに提供でき、提供したものに対するジャッジが目の前で即座に下る特殊な業態です。直接商品とサービスを提供し、喜んでいただいたお客様から、「おいしい」「とても良かったよ」「また来るね」と言葉を掛けてもらえる。このように、お客様の喜びが直接働き手自身の喜びとなることを毎日実感できるのは、素晴らしいことだと思っています。

一時期は飲食店に休業要請も出されて外食が制限されました。制限が無くなった今も、以前に比べて外食に抵抗を感じる人や外食の回数が減った方がほとんどでしょう。しかし、「外食したい」と思っている人はたくさんいるはずです。栄養を補給して生命を維持するためやおいしいものを食べるためだけなら、外食をする必要はありません。けれど、「誰かと一緒においしいものを食べて分かち合いたい」「お気に入りのお店で働いているあの店員さんに会いたい」といったコミュニケーションの欲求を誰もが持っているからこそ、飲食店は必要なのです。「鉄板を囲み、アツアツのお好み焼を食べながら別れ話などできない」とよく言うのですが、それほどに外食を通じて生まれるコミュニケーションはポジティブだということです。

このピンチは、過去のしがらみにとらわれず構造改革を進めるチャンス

では、これからの飲食店経営はどうしていくべきでしょうか。「withコロナ時代」とも言われますが、私はたとえこのウイルスが地球上から根絶されたとしても、この数か月間で出来上がった生活様式やビジネススタイル、考え方は二度と元通りにならないと思っています。だからこそ、どのようにして変革していくかがとても大切になります。新型コロナ感染拡大によって飲食店の来店客数や売上は激減し、従来型ビジネスモデルが崩壊して、経営環境や労務管理の見直しを迫られています。ただ、逆転の発想をすると、経営環境が激変する今こそ過去のしがらみにとらわれずに構造改革を進めていきやすいタイミングなのです。千房でも、コロナの影響で既存のビジネスモデルが崩壊したことはピンチだけれど構造改革に着手できる千載一遇のチャンスととらえて、飲食業の可能性を追求するための新しいチャレンジに取り組んでいきます。

そのために、「Reborn Project」として現実的なステップを設定しました。具体的には、「売上・経常利益」「営業利益・内部留保・投資回収」「単月黒字・新体制完了」という3つの目標数値を設定して、そのために「市場開拓」「店舗改革」「生産改革」「組織改革」「意識改革」の5つのアクションを、期日を決めて段階的に着手していくことにしたのです。たとえば、千房はこれまで「不採算店舗を閉店せず、改革する」姿勢でしたが、今の経営状況ではやむをえず5店舗の閉鎖も決断しました。また、注力していくのがECで販売している冷凍お好み焼の事業です。この事業は20年以上続けていますが、外食を控える代わりに家庭内で食事を楽しむ意識が高まったことで、これまでの4～5倍の売上をあげています。工場の新設により生産量を拡大するなどして、ニーズの高まりに対応していきたいです。他に、新しいエリアへの出店や新規業態のオープンも予定しており、新しい取り組みによって新しい市場開拓に挑戦していきたいと思っています。

トンネルの出口は見えなくても、強化ポイントを定めて前進するのみ

今後の千房の強化ポイントとしては、日本食が持つ国際認識とインバウンドなどの実績を活用した「独自性の明確化」、スピード感を持ってジャッジを進め、多様なニーズに適合した事業基盤を構築する「企業間連携の強化」などが挙げられます。他に、2020年に新規出店予定だった海外展開が止まってしまっているので、2021年以降に出店を進めて「国際化推進」にも注力していきたいです。そして、冷凍お好み焼事業など事業の柱となるものを育てることで「複合的収益基盤の構築」も進めていきます。

当社では、「お客様のご満足」「会社の発展」「従業員の幸福」という3つの基本軸をすべて満たす三位一体経営を大事にしています。「従業員の幸福」がなければ「お客様のご満足」はなく、「お客様のご満足」がなければ、「会社の発展」はないように、どの一つが欠けても会社は回りません。だからこそ、「お客様第一主義＝従業員第一主義」だと思っており、従業員にとって誇りを持てる会社にしたいという思いの元、積極的にメディアへ露出したり、海外展開などのチャレンジを進めたりしています。

新型コロナによる現況は想像もしていませんでした。トンネルの出口がどこにあるのか、現状はまだ見えていません。しかし、この状況の中で出来ること、飲食店としてやらなければならないことをしっかりと見定めて、変革のためのチャレンジをしていきたいと思っています。

“未来を拓く”食のイノベーション拠点MILAB

ガリレイグループ本社ビルにあるMILAB(ミラボ) は、ガリレイグループと共に、異業種企業や大学、研究機関、起業家など が集まり、世の中にない技術やアイデアを生み出していくオープンイノベーション拠点です。
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